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福岡地方裁判所 昭和60年(ワ)1347号 判決

原告(第一三四七号事件)

角久美子

原告(第七四七号事件)

角栄七

被告(両事件)

橋本こと姜一美

被告(第一四三七号事件)

姜三郎

主文

一  被告姜一美、同姜三郎は連帯して原告角久美子に対し金三三万八八六〇円及びこれに対する昭和五九年一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告姜一美は原告角栄七に対し金一〇万二一〇五円及びこれに対する昭和五九年一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告角久美子の被告姜一美、同姜三郎に対するその余の請求及び原告角栄七の被告姜一美に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告角久美子に生じた費用の二分の一は同原告の負担とし、その余は被告姜一美、同姜三郎の負担とし、原告角栄七に生じた費用の一〇分の一は同原告の負担とし、その余は被告姜一美の負担とし、被告姜一美に生じた費用の一〇分の四は原告角久美子の負担とし、一〇分の一は原告角栄七の負担とし、その余は同被告の負担とし、被告姜三郎に生じた費用の二分の一は原告角久美子の負担とし、その余は同被告の負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告姜一美、同姜三郎は連帯して原告角久美子に対し金一〇四万一四九四円及びこれに対する昭和五九年一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告姜一美は原告角栄七に対し金一一万三四五〇円及びこれに対する昭和五九年一月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告両名の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告姜一美)

1 原告両名の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告両名の負担とする。

(被告姜三郎)

1 原告角久美子の請求を棄却する。

2 訴訟費用は同原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

昭和五九年一月一五日午前一一時二〇分ころ、福岡市南区清水一丁目二四番一八号先の交差点で、被告姜一美運転の普通乗用自動車(福岡五七ね四二〇一、以下「甲車」という。)が原告角久美子運転の普通乗用自動車(福岡五六ひ七五〇九、以下「乙車」という。)に追突した。

2  責任原因

(一) 被告姜一美には、右事故の発生について前方不注視の過失があつた。

(二) 被告姜三郎は、右事故当事甲車を自己のために運行の用に供していた。

3  損害

(一) 原告角久美子の損害

(1) 原告角久美子は、右事故により頸部捻挫の傷害を負い、事故当日の昭和五九年一月一五日から同月二四日まで宝哉病院に通院し(実日数八日)、同月二七日から同年二月八日まで粕屋中央外科病院に通院し(実日数九日)、同月九日から同年五月一〇日までの九二日間同病院に入院し、同月一一日から同年六月一五日まで同病院に通院した(実日数三六日)。

その結果、同原告には、自賠法施行令別表の後遺障害等級一四級一〇号該当の後遺障害が残つた。

(2) 同原告が受けた損害の具体的内容は、次のとおりである。

(ア) 治療費 六四万六三四〇円

(イ) 休業損害 七三万円

同原告は、事故当時四七歳の女性であり、福岡市内で喫茶店を二か所経営していたが、右傷害による治療のため、四か月間就業することができず、かつ、その間主婦として家事労働に従事することもできなかつた。

そこで、同原告の月収を昭和五六年「賃金センサス」による女子労働者の産業計・企業規模計・学歴計の年齢階級別平均給与額の一・〇七〇一倍に相当する一八万二五〇〇円として、右期間中の休業損害を算定すると、次のとおり七三万円となる。

一八万二五〇〇円×四か月=七三万円

(ウ) 慰謝料 一九五万円

(ただし、傷害分一二〇万円、後遺障害分七五万円)

(エ) 損害の填補 二四三万四八四六円

(ただし、自賠責保険金一九五万円(傷害分一二〇万円、後遺障害分七五万円)、労働者災害補償保険金四八万四八四六円)

(オ) 弁護士費用 一五万円

(二) 原告角栄七の損害 一一万三四五〇円

乙車は、原告角栄七の所有であつたが、右事故によつて破損し、同原告は、その修理代金一一万三四五〇円相当の損害を受けた。

4  結論

よつて、原告角久美子は、被告姜一美に対しては民法七〇九条の規定により、被告姜三郎に対しては自賠法三条の規定により、損害賠償金一〇四万一四九四円及びこれに対する損害発生の日である昭和五九年一月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告角栄七は、被告姜一美に対し、民法七〇九条の規定により、損害賠償金一一万三四五〇円及びこれに対する前同様の遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)の事実は認める。

2  同2(一)(前方不注視)の事実は否認する(被告姜一美)。(二)(運行供用者)の点は認める(被告姜三郎)。

3  同3(損害)のうち、(一)の(2)の(エ)(損害の填補)の事実は認めるが、その余はすべて知らない。

三  抗弁

1  過失相殺

原告角久美子は、本件交差点において左折するに当たり、左折開始直前になつて左折の合図をし、しかも、左折開始直後に急停止した。

2  損害の填補

原告角栄七は、本件事故による乙車の破損に伴い、同原告加入に係る車両保険金一一万三四五〇円を受領した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(合図の遅れ及び急停止)の事実は否認する。

2  同2(損害の填補)の事実は否認する。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の証拠目録記載のとおりである。

理由

一  事故の発生

請求原因1(事故の発生)の事実は、当事者間に争いがない。

二  責任原因

(一)  被告姜一美の過失責任

(1)  成立に争いのない乙第一号証の一、二、第二ないし第五号証、証人尹音田の証言、原告及び被告姜一美本人尋問の結果によると、次の事実が認められる。

本件事故現場は、東西に通ずる、幅員約一八メートルの歩車道の区別のある道路と、南北に通ずる、幅員約五・六メートルの歩車道の区別のない道路とが交差する交差点内である。信号機の設置はない。事故当時雨が降つていた。

原告角久美子は、乙車を運転して、東西に通ずる道路の歩道寄りの車線を時速約三〇キロメートルで東進し、本件交差点で減速して左折を開始した際、南の交差道路からタクシーがかなりの速度で南進してくるのを見て、急停止した。

被告姜一美は、甲車を運転して、本件交差点を直進すべく乙車の約七メートル後方を同一速度で進行中、交差点の約一〇メートル手前で乙車が左折するものであることを知り、これに応じて減速をした。しかし、乙車が進路上で停止することは考えずにそのまま直進し、乙車の急停止を見て、あわてて右にハンドルをきるとともにブレーキをかけたが間に合わず、乙車が左折を開始した状態で停止した直後、その右後部に甲車の左前部を衝突させた。

(2)  右認定事実によると、被告姜一美は、本件交差点に進入するに際し乙車の動静を十分注視していなかつたものと認められ、同被告には、本件事故の発生について前方不注視の過失があつたものというべきである。

(二)  被告姜三郎の運行供用者責任

請求原因2の(二)(運行供用者)の点は、原告角久美子と被告姜三郎との間で争いがない。

三  損害

1  原告角久美子の損害

(一)  原本の存在及び成立について原告角久美子と被告らとの間で争いのない甲第二号証の一ないし四、原告角久美子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、請求原因3の(一)の(1)(傷害及び後遺障害)の事実が認められる(ただし、粕屋中央外科病院における退院後の通院実日数は、三六日ではなく五日である。)。

(二)(1)  治療費 六四万六三四〇円

弁論の全趣旨によると、右傷害の治療のために要した費用は、合計六四万六三四〇円であつたことが認められる。

(2)  休業損害

前掲乙第三号証及び原告角久美子本人尋問の結果によると、原告角久美子は、昭和一二年一月七日生れの女性であり、事故当時家事労働のほか喫茶店の経営に従事していたことが認められるところ、同原告は、前記傷害の治療経過に鑑み、事故後四か月間就労することができなかつたものと認められる。そして同原告と同じ年齢層の女子労働者の昭和五九年度における産業計・企業規模計・学歴計の平均給与額が同原告主張の月一八万二五〇〇円を下らないことは、当裁判所に顕著である(昭和五九年「賃金サンセス」による。)から、同原告の稼働能力は、月一八万二五〇〇円相当と認めるのが相当である。

よつて、同原告の休業損害は、次のとおり七三万円と算定される。

一八万二五〇〇円×四か月=七三万円

(3)  慰謝料 一六五万円

前記傷害による同原告の肉体的精神的苦痛を慰謝すべき額は、諸般の事情に鑑み、一六五万円をもつて相当と認める。

(4)  過失相殺

被告両名は、同原告が左折開始直前になつて左折の合図をした旨主張し、前掲乙第二号証、証人尹音田の証言及び被告姜一美本人尋問の結果中には、右主張にそう部分があるが、右証拠部分は、これと反対趣旨の前掲乙第三号証及び原告角久美子本人尋問の結果に照らして、にわかに採用することができない。

しかし、同原告が左折開始直後に急停止したことは、前記認定のとおりであり、本件事故の発生については、同原告にも過失があつたものと認められるのでこれを斟酌して、以上の損害額合計三〇二万六三四〇円からその一〇パーセント相当額を減額することとする。(損害賠償額二七二万三七〇六円)

(5)  損害の填補 二四三万四八四六円

請求原因3の(一)の(2)の(エ)(損害の填補)の事実は、同原告と被告両名との間で争いがない。よつて、右損害賠償額二七二万三七〇六円から二四三万四八四六円を控除する。(残額二八万八八六〇円)

(6)  弁護士費用 五万円

同原告が弁護士たる同原告訴訟代理人に第一三四七号の訴の提起追行を委任したことは、記録上明らかであり、これに要する弁護士費用のうち被告両名において負担すべき額は、本訴の審理の経緯その他の諸事情に鑑み、五万円と認めるのが相当である。

2  原告角栄七の損害

(一)  修理代金 一一万三四五〇円

前掲乙第一号証の一、原告角久美子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第三号証によると、乙車は、原告角栄七の所有であるところ、本件事故によつて破損し、修理に一一万三四五〇円の費用を要したことが認められる。

(二)  過失相殺

前記1の(二)の(4)記載の理由により、右損害についても一〇パーセントの過失相殺をする。(損害賠償額一〇万二一〇五円)

(三)  損害の填補

被告姜一美主張の抗弁2(損害の填補)の事実は、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

四  結論

よつて、原告角久美子に対し、被告姜一美は、民法七〇九条の規定により、被告姜三郎は、自賠法三条の規定により、連帯して損害賠償金三三万八八六〇円及びこれに対する損害発生の日である昭和五九年一月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、同原告の被告両名に対する本訴請求は、右の限度で理由があるから、これを認容し、その余は、失当であるから、これを棄却することとし、また、被告姜一美は、原告角栄七に対し、民法七〇九条の規定により、損害賠償金一〇万二一〇五円及び前同様の遅延損害金を支払う義務があり、同原告の同被告に対する本訴請求は、その限度で理由があるから、これを認容し、その余は、失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小長光馨一)

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